パラレル・ワールド~君と僕の命の起源
「あれ? 怜ちゃんが店番? 限さんはまだ戻ってないんだ」
店番をしていたのは、この『無限堂』の孫娘怜ちゃんでした。
彼女は確か、高校二年生。
「お爺ちゃんは、大きな『お蔵開き』があるって、お婆ちゃんを連れて出てまだ戻ってません」
薄暗い店内の裸電球の明かりが、怜ちゃんの眼鏡に反射してキラリと光りました。
おおらかな性格の『無限堂』店主限さんのお孫さんとは思えない、きっちりとした性格の怜ちゃん。
また彼女の生い立ちが興味深いのです。
彼女の両親は『幸福の鐘』を探してチベットの奥地へと入り、消息を絶ったと聞いています。
彼女が1歳になる少し前のことだったそうです。
その時彼らは、そこから先の危険な山道を小さな子を負ぶって登るのは無理と判断し、里の夫婦に怜ちゃんを預けて山へ入りました。
何週間しても戻らない彼らを案じて、地元のチベットの人達が大掛かりな捜索をしてくれたそうですが、最後まで彼らの消息はわからず仕舞いで。
後から捜索に加わった限さんが、怜ちゃんを引き取って日本に戻ったのは、失踪から半年後のことだったそうです。
『幸福の鐘』というのは何かって?
なんでも、その鐘の音を聞くだけで幸福になれるとうチベットに古くから伝わる秘宝なのだそうです。
怜ちゃんの両親は果たして、その鐘の音を聞くことができたのでしょうか?
いや、もし聞けたのだとしても、怜ちゃんの元に戻ってくることができなかったわけですから……
たいした意味はなかったのかもしれませんね。