翼に甘くキスをして
変なヒトだったなぁ。
また会えるかな?



「覚えたか?」

「えっ?」

「道」



気が付けば、いつの間にかトイレの前に居た。



「あ‥えと、スミマセン」



全く道なんか見てなかった。この白い迷路を攻略するのには、もうちょっと探検が必要かも。



「あ、そういえば、なんであそこに居るって分かったんですか?」



そう尋ねると、小金井くんの眉間に少しシワが寄った。

それは、怒ってる‥というよりも、困ってる‥?



「あいつからメールで」



そう一言だけ声を出すと、くるりと回ってまた歩き始めてしまった小金井くん。

職員室までの道のりすら危うかった私は、足を早めてついていった。



「あいつって、碧くんですか?」

「‥あぁ」

「お友達なんですか?」

「……」

「碧くんって‥わっ」



あのヒトのこと、もっといっぱい聞きたかった。もっといっぱい、いっぱい知りたかったのに。



「お前さ、」



叩き付けられるように壁に触れた背中が、ちょっとだけ痛い。

上から私を見る小金井くんの顔が、すごく恐い。



「自分の立場、解ってる?」

「え?」



掴まれた右の手首。
掴まれた左の肩。

やっぱり、小金井くんは恐いヒトだ。



「お前、大空さんのモノなんだろ?」

「ヒロくんの“モノ”?」



私は首を傾げた。

確かに、ヒロくんは私のことを“俺のモノだからな”ってよく言う。

言うけど……



「私は私だよ?」



今までも、これからも、きっと私はヒロくんに凄くたくさんお世話になるし、なってきた。

でも、私は私だし、友達だって欲しいもん。



「はぁー‥そうじゃなくて、」

「おい」



小金井くんが何かを言いかけたその時、聞き慣れた声がそれを遮った。



「手ぇ出させる為に案内役を任せた訳じゃねーんだけど?」



2人同時にその声の方向に顔を向ける。そこには、なんか物凄く機嫌の悪そうなヒロくんが立っていたんだ。



「わ、ヒロくんだぁ」



私がヒラヒラと手を降ると、小金井くんの両手がスッと私から離れた。



「なんでここに居るの?」



するとヒロくんはスタスタと近付いてきて、私の頭をグッと強く自分の胸に押し付けた。

ヒロくんの胸。あったかくって安心するけど、堅いから苦しい。
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