翼に甘くキスをして
私が知っているヒトの中では、1番背が高いと思っていたヒロくん。

でもやっぱり、あのヒトの方が高いように感じた。

それにこう‥もっと、柔らかく穏やかになれるというか。不思議な感じ。



「大地」

「はい」



ヒロくんが低く小金井くんを呼ぶと、少しかしこまったような返事が聞こえた。



「今の呼び出しはなんだ?」

「それは‥2時間目をサボってしまったので、担任の説教があるんだと思います」

「翼にまでサボらせたのか?」



あ‥れ? もしかして、小金井くんは私の所為で怒られてる?



「あのね、ヒロくんっ」



押さえられていた頭を無理やり上向きにずらしたから、ヒロくんのブレザーに鼻が擦れた。



「翼‥鼻が赤い」

「うん、ちょっと痛かった。へへ」



そう言ってヘラリと笑った顔を見せたら、



「かぁーいーなぁ、お前は」



いつものヒロくんに戻った。



「あ、あのね、私が迷子になっちゃったの」

「迷子?」

「うん。お手洗いに行ったら、道が分からなくなっちゃって」



するとヒロくんは、小金井くんに顔を向けた。

小金井くんは、私の知っている恐い顔ではなく、何故かどこか緊張してるように見えた。



「それでね、迷子になってる所で‥」

「大空さんっ」



いきなり私の言葉を遮った小金井くんは、なんだろう。焦ってるって感じがしたんだ。でもそれは--‥



「休み時間なくなっちゃうんで、この位で良いですか?」



もうすぐ3時間目が始まってしまうからだったんだね。



「分かった。翼?」

「なに?」

「また昼休みに迎えに来るからなっ」



ヒロくんがその笑顔を見せる時は、いつも私の髪の毛をわっさわさにするんだ。

その髪の毛を撫でつけながら、階段の途中でバイバイと手を振った。


元気な太陽の光が、ヒロくんの藍色の髪をキラキラさせて綺麗だったけれど。



「またな、翼っ」



そう言われると、真っ黒な髪に緑色の瞳をした、あのヒトのことを思い出したんだ。



「俺らも行くぞ」

「あ、うん」



小金井くんは、ヒロくんの知り合いだったんだね? それに、あのヒトとも知り合いだった。

小金井くんは恐いのに、友達が多いんだなあって思った。
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