翼に甘くキスをして
ヒロくんは、両開きの扉が備え付けてある大きな屋敷ではなく、そこから少し離れた一軒家の扉をガラリと開けた。

一軒家と言っても、すごく立派な、大きなお家。

漆喰の壁は柔らかく太陽の光を反射して明るく、上を見れば吹き抜けの天井がとても高い所にある。

和風だけれど、なんだかとてもデザイン的なお家。



「ヒロくん、待って!」



私は少し息が上がっていたためか、玄関先の段差でもたついていた。

すると--‥



「きゃっ、」



ヒロくんに足をすくわれて抱っこされる。



「下ろしてっ、ヒロくん!!」



子供みたいなその扱いが恥ずかしくて、ヒロくんの胸を叩いた。でも下ろしてはくれなかった。



「‥っ、」



私は暴れるのを止めた。

だって、ヒロくんのその顔が‥なんだろう。すごく、苦しそうに歪んでいたから。今にも泣いてしまうんじゃないかと思うほど、悲しそうだったから。


だから、そっと。

抱き締めるようにそっと。腕を、首に回した。



「ごめんなさい‥」



ヒロくんは何でこんな顔をしてるんだろう。

その理由は解らなかったけれど、その原因が私にあることは確かだから。


だから大人しく、ヒロくんの腕の中で揺られることにしたんだ。


ゆらゆら、ゆらゆら。

木の匂いが落ち着かせてくれる。


どくん、どくん。

ヒロくんの心音が少しだけ早い。



「ここ」



その声に目を開けると、ゆっくりと下ろされた。

目の前には、焦げ茶色のドア。



「開けてみて」



ヒロくんの声色が、いつもの優しい色に戻っていたことにホッとして、頬が緩む。するとヒロくんは、ぐしゃりと私の頭をひと撫でした。



「へへっ」



ちょっとだけ照れた私は、そっとそのドアを開けた。



「わっ」



中は、優しい色使いが落ち着く、綺麗な部屋。

爽やかな淡いブルーのカーテンに、薄い灰色の壁紙。天井は高く、ドアとお揃いの色だった。



「ここ、翼の部屋だから」



そう言ったヒロくんは、私にもっと中へ入るよう促す。

よたよたと、ワクワクする溢れそうな気持ちをぎゅってグーで結びながら歩いていった。



「象牙色の絨毯‥ふかふかなベッド」



どこにも白を使っていない。シーツも、家具も。それはきっと--‥



「翼、座って?」
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