翼に甘くキスをして
ふかふかのベッドの手前にあった、壁紙と同系色のソファ。

ヒロくんは、ゆっくりと腰掛けながら隣をポンポンと叩いた。



「ほら、おいで翼」



私はそこにそっと近寄り、座る。



「わわっ」



その座り心地は予想以上にもふっとしていて、一瞬だけひっくり返ってしまった。



「ふ、あっはははははははは」

「んもーっ笑うことないのに」



こんなふかふかしたソファに座ったことなかったから。だからちょっとひっくり返っちゃっただけなのに。



「あははははは」

「ヒロくんっ」



ヒロくんだってこんなに笑うんだもん。華さんのことなんか言えないよね? ヒロくんだって立派な笑い上戸なんだから。



「可愛いなぁ、翼は」

「うわっぷ」



まだヒクヒクしてるそのカタくてあったかい胸に、私の顔が押し付けられた。



「‥なあ、翼?」

「ん?」



いきなりシリアスになったヒロくんの声。

その変わりに、カーテンがバタバタと音を立てて、流れてきた風でヒロくんの髪が揺れたのを感じた。



「翼は、俺のモノだよな?」



それは小金井くんもそう言ってたし、今までも言われてきた言葉。

気にしたことはなかったし、深く意味を考えたこともなかった。


でも‥こんな風に、同意を求めるような言い方をされたのは初めてだった。だから--‥



「ねえヒロくん? それって、どういう意味なの?」



私は、初めてその意味を聞いてみたんだ。

すると、ヒロくんの肩がピクリとわずかに動いて、身体がゆっくりと離れていく。



「ヒロ‥くん?」



ヒロくんと私の間は、冷たい風が分厚く隔てる。

こんなに近くに居るのに、なんでかな? とても……遠く感じるの。



「翼は‥さ、」



ヒロくんの低い声が、鼓膜に直接届いてるみたいによく響く。



「俺のこと、どう思ってる?」



藍色の瞳が、ブレることなく私を見てる。

それから視線を逸らすことなんか‥出来ない。


--でも。


ねえ。

“どう”って、どういう意味?


私は、ただ見つめ返すことしか出来ないまま。

動くことの出来ないまま。


風だけが、ゆらゆらと気ままに遊んでいる。
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