翼に甘くキスをして
大きな吊り目を優しく細めて、腰に手を当てながら立っていた華さん。



「おはよ‥ございます」



びっくりした。なんで華さんがここに居るんだろう。

そんな目を丸くしてる私の顔を見るなり、華さんは美味しそうだねって向かいの席に座った。



「あ‥食べますか?」

「んーん。もう食べたから」



全く手をつけていなかった朝食を、早く食べなさいと急かした華さん。

私はゆっくりといただきますをして食べ始めた。



「食べながら聞いてね?」



片肘をつきながら、華さんは穏やかに話し始める。



「アタシが今ここに居るのはね、火野に頼まれたからなのよ?」

「え‥」

「ほら、食べる手を休めないっ」



慌ててパンを頬張ると、華さんはあははと声を出して小さく笑った。



「翼ちゃんは凄くアイツに大事にされてる」



なんだろう。そう言った華さんの顔が、少しだけ悲しそうに見えた気がしたんだ。



「昨日、大地にキスしてたんだって?」



一転して悪戯顔で笑う華さんに、私はまた、目を丸くするばかり。



「あれ? その様子じゃ本当なの?」

「な、ななななないですっ、そんなのっ!!」

「えー? 本当にー?」

「ないです!! だって‥」

「だって?」



キスは、こ‥恋人同士にならなきゃしちゃいけないって、ヒロくんが言ってたもん。

私がそう告げると、華さんは腕を組みながら仰け反った。



「うーん。じゃ、やっぱりアイツの勘違いか」



私は、全力で頷いた。



「アイツねぇ、かなり気にしてたよ? そのことっ」

「何で‥」

「そりゃ、翼ちゃんはアイツのモノだから‥なんじゃない?」

「あ‥」



ね、それってどういう意味なのかな? ヒロくんは、何でそう言うの?



「難しい顔しなーいのっ」

「う‥」

「ふふ」



軽く頭を叩かれた。それがなんだか温かくて。お姉ちゃんが居たらこんな感じなんだろうなって、思った。



「火野は翼ちゃんがイチバン大事なのっ。だから、翼ちゃんもアイツをイチバンにね?」

「イチバン?」

「そ。誰よりも火野を好きでいることっ。ね?」



ヒロくんのことは大好きだよ?

でもね、なんでだろう。


“イチバン”って聞いて、1番最初に思い浮かんだのは--‥

緑色の、瞳だったんだ。
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