二 億 円




とりあえず…食事をとることにした。




…正直、味なんて分からなかった。



口の中には砂や血が混じっていたから。




食事を終え、鍵を持ち部屋をそっと出ると、外は薄暗くて、彌生様のいる離れの小屋は月明かりで幻想的に見えた。



まるで、全てが幻のように。










 コツ コツ コ ツ 。





微かに聞こえるヒールの音。


この屋敷で女性ってことは…刹那さん?




コツ コツ 。




足音のする方へ進んでいくと、見覚えのある漆黒の綺麗な髪が揺らいでいた。




コツ 。





刹那さんは止まる。


私が付いてきていることは…気づいているのだろうか。




「…ひなた。コソコソせずに早く来い。私が気づかないとでも思ったのか?」



振り向きもせず、溜息混じりの声を発する。



ごめんなさい、って言いたいのに




「……ぃ。」



やっぱり声が出ない。


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