二 億 円
「ひなた。鍵は持ってきたか?」
少しだけ視線を向け、小声で質問する刹那さんは、少し怯えているように見えた。
コクリと頷き、ポケットから鍵を取り出す。
「それは…裏門の鍵だ。」
ド ク ン
心臓が大きく跳ねる。
裏門の鍵。この屋敷から、彌生様から、逃げられる…――?
「アイツは今仕事だ。
此方に来るまで時間はある。
どうせ荷物は無いだろう?
なら一刻も早く此処から立ち去れ。此処にいても、お前にとって良いことなんて一つもない。
裏門はあっちだ。急げ。」
ただ、淡々と説明をする刹那さんだったけれど、どこか様子が可笑しかった。
「…っ」
深々とお辞儀をして、小走りで裏門へ向かう。
ここから、出られる。
もうあんな仕打ちを受けなくていいんだ
頭の中は喜びに満ちていた。
けれど、屋敷を出たらどこにいけばいいんだろう。
そんな不安も浮き上がっていた。