二 億 円
腕を撫でると、感じる痛みと生ぬるい液体の感覚
以前、彌生様に彫られた私の『名前』
憎い傷跡だけれど、今はこの傷の痛みで自分を保てる。
コン コン
突然鳴り響く戸を叩く音。
それが何を意味するかすぐに分かった。
(ここから出られる…)
鈍い音を立て、光が差し込む。
光だけが、私の目に飛び込んでくる。
「反省、したみたいですね。もう十分でしょう。さあ、此方へいらっしゃい。」
彌生様の声がした。けれど、いくら目を凝らしても、彌生様の姿が全く分からない。
「……っ」
見えない。見えない見えない見えない見えない。なんにも見えない。
「おや?やはり声は出ないようですね。それに…目も。けれど、これでもう一人じゃ逃げられなくなりましたね、お人形さん。」
嘲笑う声 それがまた私を蝕んでいった。