二 億 円
「 雅樹お兄ちゃん ───。」
ハッキリ発した言葉。
声帯から発した 私の声。
「 ……… 。」
私の声を聞き、彌生様は切な気で、どこか悲しそうな表情をほんの一瞬だけ見せた。
「や、…めて。…やょ… さま……」
「私の名は言えないのですか。憎い兄の名は呼べるのに、私の名は言えないのですか?」
「ち、……がぅっ……や……さ、ま…」
私の言葉はまだ未完成で、
赤子のようにぎこちない言葉しか発することが出来なかった。
「 ……… 何故、雅樹のことばかり。」
それだけ言い残し、彌生様の気配は消えた。
残ったのは温かな蒸気と、不安。
「貴様──は────!」
扉の向こうから聞こえる怒鳴り声。誰の声なのか、何を怒っているのか、分からなかったけれど
きっと私にも関係ある事柄。
ガチャ
「ひなた。私だ。刹那だ。入ってもいいか?」
声の主は刹那さんだった。
分かった途端、安堵で力が抜ける。
「せ…、な……ん 」
やはり言葉にはならなかった。