二 億 円
夜は刻々と更けていく。
カチ カチ と時計の針は時を刻む。
「…あ、ぅ………ん、ん………。」
声は微かながらも、言葉を発することは可能になっていた。
けれど
「ひなた。起きていますか?」
彌生様の前では喋れないふりをした。
「入りますよ?」
何も見えない。何も喋れない。
独りでは、何もデキナイ
そんな、まるでお人形のようなふりをし続けた。
「ひなた…少し回復したと思っていましたが…やはり何も喋れないのですか?
何故、雅樹の名は呼べたのですか?
何故、どうして…
私のことを見てくれない。」
独り言のように、呟くように言葉を紡ぐ。
うっすらと見える彌生様はまるで恋患いの少女のように切なげで
鬼畜で冷血な御主人様の姿なんて全く無かった。
「…私は、幼い貴女に恋心を抱いたあの日から
貴女のことしか 頭にありません。
貴女を手に入れる為だけにこうして生きてきました。
……弟や、恋人すら捨ててしまうほど
貴女のことしか考えられなかった。」