二 億 円
いつ意識を失ったのか
そんなこと覚えていないし、どうでもよかった。
目を開くと、視力は殆ど回復していて、腕の傷跡も、ベッドにかすり付いた血痕もはっきりと目に見えた。
全身は軋むように痛かったけれど、隣で力尽きたように眠る彌生様を見たら
痛みが優越感に変わった気がした。
コン コン
「………?」
扉を叩く音。微かな息遣い。
「………ひなた。私だ。」
刹那さんの声だった。
「ぁ………。」
出よう、と思ったけれど、今彌生様が起きたら刹那さんまで罰を受けてしまう。
コン コン
「ひなた。寝ているのか?」
ノックの音に、微かに彌生様がうなり声をあげる。
起きてしまう。
刹那さんに被害が及ぶのだけは避けたかった。
「…………彌生、がいるのか?」
何も言っていないのに何故分かったのだろうか。
「…………そうか。彌生に仕事の時間だと伝えてくれ。ひなた、また出直す。」
コツコツ、と足音は遠退く。
少し離れたところで、硝子の割れたような音と、誰かの声が聞こえたが、聞き取ることは出来なかった。
「…………何故、刹那さんがこの部屋を訪れたのでしょう。ねえ、ひなた?」