二 億 円
雁字搦めの恋
「もう、戻れませんよ。」
それだけ言い放ち、刹那から離れていく。
血を滴らせながら、俯く彼女は、嫉妬と羞恥心で一杯だろう。
「彌生っ…!!」
顔をあげた刹那の頬には、涙が流れている。
「こんなつもりじゃ…なかったんだ。お前のことなんか、嫌いだったのに。」
泣き崩れる刹那。だが、私は何にも感じませんよ。
ひなただけが、私の感情を突き動かす権利を握っている。
「もう無理ですね。約束を守れないようなら、今日限り、貴女を解雇します。」
素直に従っていれば良かったものを。欲に溺れた可哀想な女。
「嫌だっ…!!お願い…解雇なんて言わないで…彌生っ!!!」
背中に感じる熱。刹那の香り。
抱き締めてくる腕に力が入る。
「良い子にするから…良い子にするから。だから…誰にも言わないで。」
「解雇します。ですが、約束は守ってあげましょう。颯人さんのことは秘密にしてあげますよ。貴女の両親を殺し、貴女を監禁して、去年まで刑務所で過ごしていた彼のこと。この屋敷を出たら、彼の元へ行けばいい。だが、一つだけ忠告してあげましょう。」
刹那と向き合い、優しく抱き締める。
「颯人さん、自殺しましたよ。」