二 億 円
「……静まった…?」
突然の破損音、怒声、悲鳴。
何が起きているのか、さっぱり分からない。
「……刹那さん、何処に行ったのかな…。」
私の心配をしてくれた刹那さん。きっと、今頃彌生様に怒られているに違いない。
「………。」
探しに行きたい。けれど…怖い。
彌生様に見つかってしまったら…考えるだけで足がすくんでしまう。
「はあ…。」
うっすらと赤く色付いた手首。至るところに傷の残る腕。はっきりと刻印された『 文字 』。
見るたびに蘇る、あのおぞましい姿。
けれど
「…私は、彌生様のものなんかじゃ、ないんだから…。」
確かに感じたあの優越感。込み上げた笑い。
自分の中にある下劣な感情が、痛みすら快感へと変えていく。
「…なんなんだろう、この感じ。」
嬉しい?楽しい?気持ち良い?
そんな簡単な言葉じゃなくて、単純な思考じゃなくて
もっと、奥底にある、塞いでおくべき傷痕の―――