二 億 円




「……静まった…?」



突然の破損音、怒声、悲鳴。

何が起きているのか、さっぱり分からない。



「……刹那さん、何処に行ったのかな…。」



私の心配をしてくれた刹那さん。きっと、今頃彌生様に怒られているに違いない。



「………。」



探しに行きたい。けれど…怖い。


彌生様に見つかってしまったら…考えるだけで足がすくんでしまう。




「はあ…。」


うっすらと赤く色付いた手首。至るところに傷の残る腕。はっきりと刻印された『 文字 』。



見るたびに蘇る、あのおぞましい姿。



けれど



「…私は、彌生様のものなんかじゃ、ないんだから…。」



確かに感じたあの優越感。込み上げた笑い。



自分の中にある下劣な感情が、痛みすら快感へと変えていく。




「…なんなんだろう、この感じ。」



嬉しい?楽しい?気持ち良い?


そんな簡単な言葉じゃなくて、単純な思考じゃなくて




もっと、奥底にある、塞いでおくべき傷痕の―――






< 150 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop