二 億 円
そう、ゆっくりと剥がされた、あのかさぶた。
『 貴女のお兄さんは ―― 』
『 お兄ちゃんのお願い、聞けるよね?』
怖い。汚い。憎い。
けれど、それ以上に私を支配した感情は
「ふふっ… ざまぁみろ。」
欲に駆られた男。自分を欲しがる他人。
復讐心が、満たされていく満足感。
「…ひなた、食事の時間です。」
廊下から聞こえる彌生様の声。一気に現実へと引き戻される。
「っ…はい…。」
ああ、今日も床に這いつくばってミルクを舐めなければいけないのか。そんな考えが頭を過る。
「廊下に置いておきます。……私は、…仕事があるので、一人で食べてください。」
それだけ言い残すと、足跡は遠ざかっていく。
「……。」
そっと扉を開ければ、トレーの上にはおにぎりと卵焼き…それとお味噌汁。
至って普通の、人間らしい食事。
「……彌生様が作ってくれたのかな。」
ちょっとイビツなおにぎりが、なんだか妙におかしくって
自覚してしまった自分の醜い感情と、ぐるぐる混ざりあって、気持ちが悪い。
「…いただきます。」
若干しょっぱいおにぎりは、なんでか胸を締め付けて
満たされ始めたはずの心が、また欠けていく気がした。