二 億 円
――――― バチン ッ
頬に走る痛み。床へと崩れる体。
目の前に立つ男は、いつだって冷ややかな目で
僕を蔑む。
「お前は本当に出来損ないだな。黒木家の恥だ。」
いつだって、その口で僕を罵倒する。
「ごめんなさい…っ、お父様…っ。次は…次は必ず一番を取るからっ…!!」
どんなに謝っても、どんなに誠意を伝えても、返される言葉はいつも同じ。
「お前は私の『 汚点 』だよ。私に恥をかかせるな。出来損ないのガラクタが。」
結果が全て。スベテは実力。
『 柵 (シガラミ) 』に捕らわれた大人には、何も届かない。
「失礼致します。お父様、全国模試の結果が出ました。」
そんな大人を簡単に操れる、兄さんが羨ましくて、妬ましかった。
「彌生は本当によく出来た子だなあ。私の自慢の息子だよ。ご褒美に、何か好きなものを買ってあげよう。」
よく出来た息子。よく出来たお兄さん。
周りから浴びせられる兄への称賛。それは同時に、僕へと浴びせられる非難。
「欲しいものはあと十年待たなければ手に入りません。」
「ははっ、そうだったなあ。彌生にしては随分と高価な買い物だったが…それはそれだ。他には…――。」
僕の知らない顔で笑うお父様。僕の知らない声で褒めるお父様。
僕の知らない会話を楽しむ二人が、憎くて、妬ましくて、
いっそ、殺してしまえたら、と願って生きていた。