二 億 円
どうして兄さんは僕を世話役へしたのか。
どうして兄さんは僕を欲しいと言ったのか。
どうして、僕は、使用人にならなければいけなかったのか。
家族なのに。兄弟なのに。子供なのに。
それが分かるのは、僕がもう少し、大人になってから。
「お、お茶を待ち…お待ちしっ…い、いたしました。」
馴れない使用人の言葉。したこともなかった家事。
学校から帰ればすぐに着替え、使用人として働く。
そんな毎日が繰り返されていた。
「日向。もっとスムーズに。お待ち致しました、なんて特に難しくないでしょう?それと、姿勢。首が垂れていますよ。首は動かさず、腰から綺麗に折り曲げるように……――」
兄さんの指導は、とても厳しかった。
逃げ出したくなったし、泣きたくなった。
けれど、兄さんは一度も、僕を見捨てたりしなかった。
お父様のように、『ガラクタ』だと責めたりしなかった。
いつだって、僕のために教えてくれたんだ。