二 億 円
「可愛い可愛いお人形さん。貴女のお名前は何ですか?」
目の前でチラつく鋭利な物体に顔が引きつる。
「おや?口が付いていないのかな?どうして喋らないのかな?」
にこにこしながら、楽しそうにカッターの刃をカチカチ出し入れする。
「喋らない口なら要らないよ?」
冷たい瞳で口だけ笑う。
刃を唇に当て、優しく撫でる。
「い゙っ……─!?」
滴る真っ赤な血液。
歪む顔を見て、満足そうに微笑む。
「お名前は?」
「ひ、なた…です。」
「良くできました。さあ、右腕を出してごらんなさい。」
!!!!!
嫌だ…怖い。痛いのは嫌。
私はモノなんかじゃない。
名前なんて刻まれたくない!!
「い、嫌…です。」
「嫌…──?」
ドクン
冷たい瞳が私を射抜く。
「嫌、とは否定の意味ですよね?ひなた。貴女に否定する権限など有りませんよ。」
無理矢理腕を掴み、体ごと床に押しつける。私はうつ伏せに倒れ、背中には彌生様が乗っかり、腕をキツく掴んでいた。
「さあ、刻印式を始めましょうか。」