二 億 円
「…………………はあ。」
日向少年と彌生様のことが気がかりで仕方がない。
本当に気づいていなかったの?
でも確かに此方を見ていた。
もしかして、部屋を出たときに感じた視線って…──
いや、悪い方に考えるのはよくない。大丈夫、私は何も悪いことはしていないんだし、普通にしていればいい。
コンコン
「ひなた。いますか?」
噂をすればなんとやら。ごく普通の声色で彌生様は私を呼ぶ。
「…はい。」
「今日の仕事は早めに切り上げました。ひなたに良いことを教えておこうと思いまして…。今、宜しいですか?」
良いこと?
何のことだかサッパリだった。
「ちょうど退屈していたので、大丈夫です。」
「そうですか。では…付いて来ていただけますか?」
にこりと微笑み、私の手を引いていく。半場強引なのが少し気にかかるけれど。
「是非ひなたに案内したい部屋がありまして…気に入って下さると嬉しいのですが…。」
口元を弛ませ、楽しそうに私の手を引く彌生様は、小さい子どもの様に見えた。
「さあ、此処ですよ。」