二 億 円
まるで時が止まったようだった。
『 必 要 無 い 。』
そうキッパリと言い放つ彌生様の顔にはいつもの笑顔なんて一切無かった。
「あっ……すみ、ませ…ん。や、彌生さ、ま…。」
胸が痛む。顔を悲しそうに歪ませながらたどたどしく言葉を繋ぐ。
「私は屋敷の主です。貴方は私の言われた仕事をこなすだけで良いのです。」
いつもの笑顔だった。
張り付けたようなわざとらしい笑顔。
「はい…すみませんでした。仕事に戻ります。」
私の方は見向きもせず、向日葵を一輪ちぎり取り、早足で立ち去っていく。
「駄目じゃないですか…お人形さんはお人形さんらしく大人しくしていてもらわないと。」
一歩、また一歩と距離を詰め、私の頬に優しく触れる。
そして口元を弛ませながら爪を立てた。
「顔に傷を付けたくありません。だからあまり私を怒らせないで下さいね?」
「なっ…そんなの「反抗するお口はこうですよ?」
ガ リ ッ 。
「うぁっ…──!!??」
目の前には彌生様の綺麗な瞳。
滴るのは私の鮮やかな血液。
痛むのは紛れもなく私の唇。
何をされたのか一瞬理解できなかった。