二 億 円
「雅樹お兄ちゃんどこ行ったのかなあ?ひなたを置いて先帰っちゃったのかなあ?」
先程の満面の笑顔から一変、不安気な表情をする少女に、心を奪われた。
私が持っていない素直さ、純粋さを持っていた。
「お家はどこ?送ってあげるよ。」
少女の手を握ると、手からも体温が伝わってきた。
「うんっ。お兄ちゃんありがとう!」
嬉しそうに微笑む少女はとても愛らしくて、気持ちは膨らむばかりだった。
暫く歩くと、小さな家に着いた。
あまり綺麗とは言えない小さな家。
「ここ!ひなたのお家。お兄ちゃんありがとう!」
手を離し、家へ駆けていく少女を見て、胸が苦しくなった。
もっと一緒にいたい。もっと君の声を、体温を、匂いを、感じていたい。
初めての感情に戸惑った。
「あれ、ひなた…まだ帰ってなかったのか。」
玄関から聞こえる男の声。うっすらと見えるシルエットからして、私と同じ年ぐらいだろう。
「お兄ちゃん!ひなたのこと置いていったでしょ!!ひなた怒ったんだからね!!もうお兄ちゃんなんて「ごめんごめん。俺が悪かったよ。ごめんな?」」
微笑む男は何故か違和感があった
まるで自分を見ているような、歪んだ空気を感じた。