二 億 円
「えーっと…どちら様?」
私の存在に気づき、貼り付けたような微笑みで此方を見る男。
少女と同じの柔らかそうな髪に白い肌。
「彌生お兄ちゃん!ひなたをここまで送ってくれたの。」
「彌生くん、有り難う。ひなたもちゃんとお礼言って。」
「彌生お兄ちゃんありがとっ!」
このときの二人は仲の良い兄妹、という印象だった。
それから一ヶ月後、高校生活が始まった。
都内では有名な私立高校だった為、高校内にはモデルをしている女子や、財閥の息子などもいた。
「流石に有名なだけあるな…あれ?」
クラス名簿を眺める見覚えのある男の姿
「…日夏くん?だったよね。たしか、日夏雅樹くん?」
一ヶ月前に出会った少女の兄。まさか同じ年で同じ高校に入学なんて…縁を感じた。
「あ。たしか…彌生くん。同じ高校だったんだ。偶然って凄いね!」
話をしながらクラス名簿を見ると、クラスも同じ、しかも名簿も前後だった。
「なんか…あれだね。ちょっと気持ち悪いね、ここまで一緒だと。」
ケラケラ笑いながら、たわいもない話をしているうちに、私と雅樹は仲良くなった。
このときの雅樹は葛(クズ)なんかじゃなかった。
人として、同じ男として、優しくて穏やかな雅樹が好きだった。