溺愛プリンス
「志穂」
ロッカールームから出てきた茜が、こそっと耳打ちしてきた。
その手にはなにか握られている。
茜はそれをあたしに手渡した。
「今日はちゃんと来てえらかったね。なんかあったら電話して」
「ありがと」
「お疲れ様でした」ってそう言いながらお店を後にした茜。
その背中を見送ってから、手元に視線を落とすと、それは……。
「これって……福引券?」
この商店街でやっているものだった。
お客さんにでももらったのかな?
こんなのくれるなんて、茜ってば。
なんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「ありがとうございました」
お客さんを見送って、ふう、と一息つく。
時計を見るとすでに7時半を過ぎていた。
もうこんなに時間たってたんだ。
今日は忙しかったなぁ……篤さんの事、気にしてる余裕なかったかも。
チラリと厨房をのぞけば、真剣に和菓子作りに取り組む篤さんの背中が見えた。
その背中は大きくて……。
やっぱり、いいなって思ってしまう。
この気持ちは、篤さんが言ってたようなものじゃない。
ちゃんと、恋……。
やりきれなくて、唇をキュッと噛み締めた。