溺愛プリンス


後片付けをして、帰り支度を済ませると厨房をのぞいた。


あれ……?
篤さんがいない。

てっきり、まだ和菓子作りをしてるんだと思った。


お店を見ても、その姿を見つけることは出来なかった。



「……もしかして。避けられてるのかな……」



そりゃそうだよね。
いくら篤さんが優しくても、迷惑だよね。
告白された相手とふたりきりじゃ……。


あたしは誰もいない厨房にお辞儀をして、裏口から外へ出た。



と、その時。
次々に肌に感じる冷たい感触に、思わず目を閉じた。

空を見上げると、街灯に照らされて大きな雨粒が落ちてきていた。


「うそ……」


慌てて家を飛び出してきたから、傘の事なんてすっかり忘れていた。

遠くで雷の音も聞こえる。
待ってたら、もっと酷くなるかもしれない。

駅までは、走れば10分だ。



よし。走ろう!
なんか無性に走りたい気分かも。

走って、このモヤモヤした未練たらしい気持ちも、雨と風に吹き流してもらおう。


そう思って、一歩を踏み出したその時だった。


「……っ!」


目の前に、突然誰かが現れて、そっと傘が差し出された。



……えっ……。


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