溺愛プリンス
茜と別れ、バイト先に向かう。
ジリジリと肌を焼く太陽。
麦わら帽子をかぶり、空を見上げれば真っ白な入道雲がどこまでも伸びている。
「……」
『じゃ、まだ篤さんのことで悩んでるの?』
そう言われた言葉が、ふとよみがえる。
あの日、あの夜篤さんのキスを拒んでしまったあたしに、篤さんは言ったの。
――――……
――……
『……志穂ちゃん?』
『……篤さん……ごめんなさい』
篤さんとキス。
出来なかった……。
その時、目を閉じた瞬間浮かんできたのは、ハルだった。
驚いて……だから、とっさに顔を背けてしまったんだ。
『……あの、あたし……』
なにか言わなくちゃ……。
頭の中が真っ白になって、それでもハルは消えてくれなくて。
どうしていいのかわからなかった。