溺愛プリンス
*
悩んでるうちに、短い夏はあっという間にすぎ、残暑厳しい9月。
結局誰も誘えなかった旅行は、明日に迫っていた。
『温泉?どーしてもっと早く言ってくれなかったのよ』
スマホの向こう側で、恨めしそうな声がした。
「あたし、言ったよ?でもお母さん明日はお友達とランチ行く約束してるって、楽しみにしてたじゃない」
そう言うと、お母さんは『そうだけど』って言葉を濁した。
『でも、まさかひとりで行くなんて思わなかったんだもの。大丈夫なの?志穂』
「大丈夫だよ」
あたしがケラケラ笑ってそう言うと、お母さんはそう?と、ため息をこぼした。
心配症なんだから。
「じゃあ、切るよー?」
明日の準備しなくちゃだし。
そう思って、電話を切ろうとしたその時。
お母さんに、『志穂』と呼び止められた。
「なに?」
『テレビ、観てる?つけてみなさい、早く』
「えー?なんで?」
不思議に思いながらも言われたままにテレビをつけた。
いったい、なんだってのよ……。
うんざりしつつ目を向けた先。
そこには、最近見かけない、あの人が映っていた。