溺愛プリンス
「あ、はい!」
顔を上げると、王子が少し身を乗り出してあたしの顔を覗き込んできた。
ハッとして、目の前に作っていた握りこぶしを慌てて背中に隠した。
……しまった!
ここには、王子がいたんだ!
ヒロ兄に文句を言うよりもっと重要なことがあったんだ!
この人と誰もいない図書館で2人きりなの誰かに見られたら……
ひえー!
震えあがったあたしは、あわてて一歩王子から距離をとる。
ヒロ兄がいないんじゃ、ここにいる意味ないもんね。
さっさと帰ろう。
「すみません、お邪魔しましたっ」
きっと、ここにいるのはプライベートの時間なんだ。
せっかく1人でいたのに、あたしなんかが来て不愉快に思ってる。
そう思ったあたしはガバッと頭を下げると王子から逃げるように背を向けた。
……だけど。
パシ!
強い力で、いきなり腕を引かれた。
え……?
「待って、志穂」
「……」
振り返ると、なぜか王子に手首を掴まれていて。
見上げれば届く先。
瑠璃色の瞳の中に、あたしがしっかりと映り込んでいるのが見えた。