溺愛プリンス
ハルは思い切りジト目であたしを眺めて、その距離を詰める。
「そりゃよかったな! お前が呑気に寝息を立ててるおかげで、俺は一睡もできなかったが」
「ほえ?」
たこ口のままだから、変な受け答えになってしまった。
「好きな女が一晩隣にいて、何もできないとかどんな仕打ちだよ」
「…………」
「だいたい、この俺を突き飛ばすとは、本当いい度胸してるなお前は」
「……ら、らって……」
しょ、しょうがないじゃない。
やっと自分の気持ちに整理がついて、ハルに向き合おうって思ったんだもん。
すぐには、無理だよ……。それに……。
サラリと言われた”好きな女”って言葉に、戸惑っているとハルはそのままチュッと前髪キスを落とした。
そして、今度は優しく目を細めると、イタズラに微笑んだ。
「”次”は待ってやらないからな。ちゃんと、心の準備しておくこと」
そう言って、ポンッと頭に手を乗せた。
リンゴのように真っ赤になってしまったあたしを置いて、そのまま布団から抜け出した。
「あ、それから朝食にはまだ時間があるから、ゆっくりしてくるといい」
部屋を出ようとしてるハル。
ハッとしてその背中に慌てて声をかけた。
「……へ? ハ、ハルはどうするんですか?」
「すぐに空港へ向かう。
長期休暇だからって、ここぞとばかりにスケジュール詰め込まれた。俺が学生だということをあの堅物らは忘れてんだよ」
仕事……。
昨日、ショーンさんが言っていた言葉が蘇った。
って事は、またしばらく会えないんだ……。