溺愛プリンス

ハルは、知らなかった?

うんん、そんなハズない。
きっと知っていた。


じゃあなんで教えてくれなかったの?


遠くに行ってしまうのに。
そばにいられなくなるのに……あんなふうに優しくして。


ひどいよ……!


ハルのバカ!
…………バカバカバカ!



―――バシン!



「ほんっと、最低」



つぶやいて、くるりと踵を返したその時だった。



「うわっ!」

「ひゃ……」



振り返ったその先で、上体をのけ反らせてあたしを見下ろしている篤さんの姿が……。
彼の手には、色鮮やかな和菓子。



「っ、あ、篤さん!ご、ごめんなさい」


ぶ、ぶつからなくてよかった!
ガバリと頭を下げたあたしに、篤さんののんびりした声が降ってきた。


「いや、大丈夫大丈夫」



いつものホッとする笑顔を向けて、篤さんはあたしの横に腰を下ろす。
ショーケースのガラス戸をあけて、まるで宝石のような和菓子を丁寧に並べていく。



ハルのことで頭がいっぱいで……、全然仕事に集中できてなかった。
あたし、ほんと恥ずかしい。



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