溺愛プリンス
「……あの、この前……の事なんですけど」
「この前?」
「あ、図書館で」
首を捻った王子に慌てて言葉を付け加える。
『図書館』と言ったあたしから視線を外して王子は宙を仰ぐ。
しばらくして「ああ……」と納得したようにカップをテーブルに置いた。
「なに?」
少しだけ口角をキュッと持ち上げた王子に目が奪われた。
「……」
なんでこんな気持ちになるの?
すっごく敗北感。
……得体のしれない“なにか”に負けた気分になる。
いるんだな。
ほんとに王子様って……。
たしかにこの人はどこかの国の王子様。
本物なんだけど。
だけど、そうは言ってもこのモデルなみのルックスはズルすぎる。
頭もいい。
容姿は完璧。
そして、みんなから慕われてて……。
「……志穂?」
「あ」
王子はあたしの名前を呼ぶと、椅子の背もたれから体を起こした。
テーブルに身を乗り出すようにして、王子はあたしの顔を覗き込む。
その瞬間、風に乗って甘い香水の香りに包まれた。
ドクンッ!
ひゃああああ!
顔、近くに寄せるの、やめてもらえますー!!!?
内心焦りながら、あたしは口を開いた。