溺愛プリンス
頭に血が上ったあたしはスマホを鞄に突っこむと、そのままテラスを出た。
「どこ行くんだ」
背中越しに王子の声が聞こえたけど、あたしはそのままお会計を済ませて外へ飛び出した。
と、目の前にいきなり影が落ちる。
「……通してください」
通せんぼするその人影。
ため息を吐きながら顔を上げた。
真っ黒なスーツが、3つ。
そして、その背後から『彼』が姿を現した。
「ハロルド様を残してどこへ行かれるおつもりですか」
「……関係ありません」
この人は、王子のお付の人だ。
いつも何気なく傍にいて、サポートしてるのを何度か見かけた。
蜂蜜色のサラサラした髪。
それをしっかりと斜めにわけて、彼は伏し目がちにあたしを見据えた。
その瞳は、王子のものとはまた違う、アクアマリン。
ほとんど水色に近くて驚いた。
「お戻りください」
ピシャリと言われ少したじろいでしまう。
ま、負けないんだから。
「いいえ、戻りません! あたしには無理です。もっと他の方探してください」
ペコリと頭を下げて、彼らを追い越した。
うんん……正確には“追い越そうとした”。