溺愛プリンス


いったいどれだけの時間が流れたんだろう。

小さく溜息をつくと、きゅっと唇を引き結ぶ。



服着なくちゃ。
ベスが迎えに……、


「あれ?」



頬に伝う涙をグイッと拭ったところで、ハッとした。



――ない。

服が、ない!?


ちょ、ちょっと待って?
えーっと、昨日は確か……、そう、この部屋に入るなりハルに迫られて……。

それで、ベッドに……。
だから、脱いだ服はここにあるはずなのに。



シーツを体に巻きつけたまま、そそくさとベッドから降りる。
片手を床について、しゃがみこむとベッドの下を覗き込んだ。


「……ない……」


どうして……。
ま、まさかとは思うけど……、ハルに捨てられちゃったとか?
昨日、あたしが着てる服見てなんか変な顔してたし。


て、いくらハルでもそこまではしないよね。



とにかくはやく探さなくちゃ。




顔を上げたその時。




―――ガチャ!



ノックもなしに勢いよく扉が開く。




「ここか、志穂!」

「……!」



必死の形相で現れたのは、信じられない人だった。




「ま、マルクさ……?」


< 254 / 317 >

この作品をシェア

pagetop