溺愛プリンス
「それで、どうして、あの……マルクさんがこんなところにいるの?……いるんですか?」
「はあ? って、そうだ! こんなにのんびりしてる場合じゃないんだ、急ぐぞ」
「え、わっ」
マルクはあたしの手首を掴むと、そのまま踵を返す。
一目散に家を飛び出すと、外に止まっていた車に乗り込んだ。
なんの説明もないまま車は細い林道を走り出す。
あっという間にリュンヌ・メゾンが遠ざかると、そこはまるで中世の街並みだった。
そう言えば、こっちに来てからハルの住んでる街を見るのは初めてだ。
空港からお屋敷まではずっと林道だったし。
さっきから誰かと連絡を取り合ってるマルク。
運転手さんにも「もっと急げないのか」って急かしてるし。
一体何がどうなってるの?
声をかけるタイミングを逃してしまったあたしは、呆然としたまま流れゆく街並みを眺めていた。