溺愛プリンス
バタン!
勢いよく車の扉が閉まったのも気が付かないほど、あたしは目の前の光景に目が奪われていた。
車に揺られること1時間ほどで目的の場所に着いたらしい。
でも、これって……。
「すごい……」
溢れかえるほどの人の波。
どこかの国旗だろうか、見渡す限り風にはためくカラフルな旗。
街並みのどの窓辺にも真っ白な花が零れんばかりに飾られている。
ううん、そこだけじゃない。
街灯にも、よく見れば人々の胸元にも街全体を彩るように、白い可憐な花が咲いていた。
そこはまるで別世界。
本当に、夢の中に紛れ込んでしまったみたいだ。
きれい。ため息しか出てこない。
行き交う人々の嬉しそうな笑顔。
そして、その誰もがみんな流れるように同じ方向へ向かってる。
街全体に感じるこれは……。
祝賀ムードだ。
まさか……。
あたしの考えは、必然的にたった一つにたどり着いた。
呆然と突っ立ったままのあたしの手首を掴んだマルク。
強く強く引かれ、よろめきながらもあたし達はその人の波にのまれていく。
流れの遥かその先に、一際目を引く真っ白な建物が姿を現した。
宮殿と言うのにふさわしいその建物。
ザワザワとした喧騒が、歓喜の声に変わる。
建物の中央に現れたのは、真っ白な貴族の服に身を包んだ、ハルだった。