溺愛プリンス
真っ白な建物に、真っ黒なハルの髪が一際目を引く。
瑠璃色の瞳は、動くこともなくまっすぐに前を見据えていた。
そして、国王が一歩前に出て大きく息を吸い込んだ。
「この善き日に、ハロルドが婚約をする運びになりました」
こ、婚約……。
嫌な予感は当たってしまった。
この祝賀ムードは、やっぱりそう言う事だったんだ。
王様は今日ハルの婚約を発表するつもりでいたから、昨日あたし達がいなくなっても動かなかったんだ。
どうせ、なにも出来ないってわかってたから……。
ハルも、それをわかってて……。
昨日の出来事がフラッシュバックする。
『今日だけは、ただの男として志穂を愛したいんだ……』
だから、あんなこと……。
最後だって、わかってたから?
自分でも気づかないうちに、ギュッとスカートを握りしめる。
そうしていないと、全身が震えそうだった。
なにもかも、国王の筋書き通りだ。
あたしがなにしたって、あの人の言う通りになってしまうんだ。
そして、ハルも彼の描いたレールの上にジッと身を委ねてる。
本当に?
本当に、それでいいの?
満足そうな国王の後ろに控える、当事者はまるで無機質な人形のように動かない。
悲しいんじゃない。
悔しくて、涙が溢れそうになった。