溺愛プリンス


身体が震える。


指先がどんどん冷たくなってく感覚。
心臓がドクドクうるさい。



頭の中に、いろんな考えがどっと流れ込んできて、まとまらない。



電車が大学のある駅に止まる。
扉が開くと同時に、あたしは転がるように駆け出していた。



どうしてヒールなんて履いちゃってんだろう!

ハルと別れてから、あたしは昔の自分から変わりたいってそう思った。
昔はあんまり着なかった女の子らしい服装したり、メイクだって頑張った。


前を向いて生きていくために。
大それたことなんてしていないけど、それでもあたしにとっては確かな一歩。

変わり映えしない生活がいいなんて、もう思わない。





「はあっ、はあっ」



大学へ続く桜並木。
秋から冬へ移りゆく季節に、生い茂っていたその葉は緑から赤へと変わりまた新しい花を咲かせるために葉を落としている。


ハルと出会ったのは、この桜が満開の季節だった。

あの頃とは、なにもかも変わってしまった。





ハル……。
異国の地の王子様。



逢えないけど。
もう、二度と手の届かない人だけど。


同じ空の下にいるハルに……、あたしも輝いてるよってそう胸を張って生きていきたくて。




息が出来ない。
苦しい。
足がもつれる。

それでもあたしは、ようやく大学にたどり着く。



そして、そのままあの場所を目指した。




< 269 / 317 >

この作品をシェア

pagetop