溺愛プリンス
茜色と
夕暮れ時。
この時期は日が暮れるのが速い。
……オレンジに染まるこの世界は、あたしをあの頃へと連れて行く。
「……っ、はあ……」
肩でする呼吸を整えて、目を閉じる。
それから深く息を吐き出して、意を決して顔を上げた。
――――ガラガラ
鼻につく独特の印刷物の匂い。
それから、少しだけホコリっぽさが肺を満たす。
やって来たのは、大学の図書館。
ゆっくりと本棚の合間を歩いて、奥へと進む。
館内はシンと静まり返っていて。
耳鳴りがしそうだった。
ドックン
ドックン
心臓の音だけが、やたら耳につく。
カツン カツン
ヒールの音がいつも以上に響く気がした。
そして、その音をききながらあたしはまっすぐにあの場所を目指した。