溺愛プリンス
後ろから抱きしめていた腕に、ギュッと力がこもる。
覗き込んできたその人と、目が合った。
真っ黒な髪。
まつ毛にかかりそうな前髪が、彼の瞬きに合わせて揺れる。
その奥の、瑠璃色の瞳があたしを見つめていた。
恥ずかしげもなく、大きく開けた口をパクパクさせたあたし。
ハルはそんなあたしを可笑しそうに眺めながら、ゆっくりと身体を起こす。
窓枠に腰を落とすと、楽しそうな笑顔を向けた。
「久しぶりだな。志穂」
「……」
ひ、久しぶり!?
なんなの、この夏休みどう過ごしてた?みたいなノリ!
途切れていた思考回路を繋ぎとめて、なんとか言葉を口にする。
「………な、なんで……ここに、いるの」
「志穂に会うのに、理由が必要になったのか?」
「そ、それは……」
いるでしょ、理由!
だって、結婚しちゃったんでしょ?
か、かりにもあたし達一線を越えてしまった関係と言うか……。
はっ!結婚して、王位を継いだって事は……この目の前の人はもしかして……お、おお、王様!?
ジュリオットは?
一緒に来てるとか?
スーツ姿のハルから視線を逸らし、辺りを見渡す。
誰もいない事に気付いて、のろのろと椅子から立ち上がった。
呆然としたまま、笑みを浮かべてるハルを見上げる。
「ああ、そうだ」