溺愛プリンス
ハルは眉間に寄せていたシワを解くと、小さく咳払いをした。
それから一呼吸おいて、あたしを見下ろした。
……ドキン
長いまつ毛に縁取られたアーモンドの瞳が、ゆっくりと瞬きをする。
瑠璃色の瞳に、マヌケなあたしと目が合った。
「――俺は、”ただの男として志穂を愛したい”。そう言ったはずだが?」
「…………」
身体が震えそう。
目の前が滲んで、ハルの顔が涙で見えなくなる。
逃したくない。
1秒たりとも、見逃したくない。
「この世界をふたりで飛び越えようと、そう言ったのはお前だろ。
俺は、あの時決めたんだ。 志穂は、そうじゃなかったのか?」
「……あ……たし、は……」
「俺が王子じゃなくなったら、志穂にメリットはなにもなくなるな……。もしかしたらツラい目に合わせてしまうかもしれない。それでも俺は、志穂を手放したくないと思った」
そう言ったハルの瞳に、初めて不安の色が宿る。
初めて見せるその表情に、たまらなくなった。