溺愛プリンス
はあ……と、またため息。
視線を手元に落としてハッとした。
あれ、もうこんな時間!
時計はすでに午後の2時を指していた。
今日はもともと午前中だけの講義だったから、1時には帰ってる予定だった。
だけど、あたしの予定はいつもずれる。
それはもちろんこの王子様のせいなのだ。
今日も帰ろうとしていたあたしを、執事のショーンが迎えにきて。
『お茶をご一緒にとの事です』
なんて相変わらずいきなり現れて、いきなり有無を言わさず連れて行かれる。
みんなさ……
あたしをうらやましいって思ってるかもしれないけど……。
実はすっごく振り回されてると思う。
慌ただしく鞄にノートやらペンケースやらをしまうと、席を立った。
そこでようやく王子が顔を上げる。
「志穂?」
「あたし、これからバイトがあるので失礼します」
そう言ってペコッと頭を下げた。
「……バイト?」
王子が不思議そうに首を捻った。
そっか……きっと王子は“バイト”って言葉自体知らないんだろうな……。
そうは思ったけど、説明するのもなんだか面倒くさくて、そのままペコリと頭を下げてテラスを後にした。