溺愛プリンス
「茜ちゃん、志穂ちゃん、新作。食べてみる?」
そう言って顔を出したのは、このお店の8代目頭首の松山篤(あつし)さんだ。
真っ白な服を着て、厨房から顔を出す彼は柔らかな笑顔をあたし達に向けていた。
「やったあ!」
飛び跳ねるように、篤さんが持っていた和菓子に手を伸ばした茜。
そんな茜の様子をニコニコと見てる彼を覗き込んだ。
「……いいんですか?」
「うん。 今回は若い子向けに作ってみたんだ。はい、志穂ちゃんも。食べて感想、聞かせて?」
ほらってあたしの目の前に小さな和菓子を差し出した。
「うわ、おいし! 篤さん、これ超美味しいっ」
「ほんとー?よかった。やっぱり若い子の感想も聞いておかないとね」
人のよさそうな笑顔の彼から視線を落とすと、そのお皿の上には女の子が喜びそうな淡いピンク色の和菓子。
その姿は、桜貝のようだった。
ほんと、この人の作るお菓子って、小さくて繊細で……。
見てるだけで頬が緩んじゃうような、そんな幸せな和菓子なんだ。
「志穂ちゃん?」
手元の和菓子を見つめたまま、ぼんやりしてるあたしの顔を心配そうに篤さんが覗き込んできた。
フワリと、砂糖みたいに甘ったるい香りが包む。
あたしは「ふう」とため息をついて、篤さんを見上げた。
「……若い子の感想って……。篤さんだって十分若いじゃないですか」
「ははっ。そうは言っても志穂ちゃんと10違うんだけど」
「……10も、20も、変わらないです」
あたしはそう言うと、小さな桜貝をそっと口に運んだ。
あ……。
その瞬間広がる、甘い甘い……。