溺愛プリンス
「いや~志穂! イイ女になったなぁ、ちょっと地味だけど」
はぁ?
「……そう言うヒロ兄も、ずいぶん昔とイメージ違うね」
地味?
思ってても、直接言う?
カチンときて、皮肉を込めて言う。
だけど何を思ったかヒロ兄は「ワハハ、そうか~?」なんていいながら明るい髪を掻き上げた。
……褒めてないっつの!
心の中で突っ込みながら、引きつった笑顔を作る。
ヒロ兄の事、ほんとは気付いてたよ。
ちょっと前に。
気付いてて声をかけなかったのは、関わりたくなかっただけ。
それ、わかってよ。
……ヒロ兄の、バカ。
仮面のような笑顔を張り付けてるあたしになんか気付く様子もなく、ヒロ兄はペラペラと話を続けてる。
うう……帰りたい。
さっさと帰ってればよかった……。
周りの女子たちの好奇と邪念に満ちた視線を全身に受けながら、あたしはジリジリと後退りした。
「あの、ヒロ兄!あたしこれから……」
意を決して口を開きかけたその時。
ヒロ兄の後ろから、真っ黒な髪がヒョイっと顔を覗かせた。
「ヒロトの友達?」
「……」
その瞬間、あたしのまわりの景色だけが
時間がとまったみたいに、ゆっくりと流れるように感じた。
太陽の光も
少しだけ肌寒い春風も
その風に乗って降り注ぐ、淡いピンクの花びらも
なにもかもゆっくりで……
関係ないと思ってたのに……
世界が違うって……。
だけど
思いもよらない“変化”は突然やってくるもので……。
不思議そうにあたしを見つめるそのガラス玉。
それは今日の空みたいに澄んでいて
息が止まりそうだった。
王子様が
あたしの顔を覗き込んでいた。