溺愛プリンス
―――で。
結局言う通りにしちゃうあたしのバカ。
「はあ……」
午後の講義なかったからよかったものの。
ハルって、ほんとあたしの予定とか無視だよね。
乱れた息を整えるように、大きく深呼吸すると図書館の扉に手をかけた。
ガラガラガラ
シンと静まり返る図書室には、それでもたくさんの人で溢れていた。
ヘッドホンをして、勉強している人や、それぞれ本を手にして、息をひそめるようにページをめくっている。
その様子を横目に、図書館の奥へを足を進めた。
昼下がり。
眠くなるような日差しが、大きな窓から降り注いでいた。
いちばん最後の本棚をヒョイと覗き込むと、いつもの場所で小さな本の文字を追いかけるハルがいた。
呼び出しておいて、あたしが来た事にまったく気づかないハル。
長いまつ毛が頬に影を落とし、瞬きのたびに揺れた。
「……」
キレイだな……。ほんと。
おばあ様が日本の人って言ってたけど、だからだよね。
こうして瞳の色を見なければ、日本人に見える。
黙ってハルの向かいの席に腰を落とす。
すると、そこでようやく瑠璃色の瞳があたしを捕えた。
黙っていると、ハルも何も言わずただ口元を緩めただけでまた視線を落とした。
なによ……。
今すぐ来いって言うから、何事かと思えば。
文句のひとつでも言ってやりたかったけど……。
ハルの顔を見ていたら、どの言葉たちもどこかへ引っ込んでしまった。