溺愛プリンス
夕食も、すごく和気あいあいとしていて、賑やかで。
椎香さんの作ったお料理は本当にどれも美味しくて、幸せの味がした。
「今日は、ありがとうございました」
先に寝てしまった草介くん。
後はいいから、と言ってくれた椎香さんに挨拶をして、お店の外に出た。
そう言って振り返ると、月明かりに照らされた篤さんがコトリと首を傾けるとフワリと目を細めた。
「俺の方こそ、本当にありがとう。すっかり遅くなっちゃったな」
デニムのポケットにそっと手を忍ばせて、篤さんは眉を下げた。
すっかり陽の落ちた街は、人通りもほとんどなくて。
篤さんの声が、まるで耳元で聞こえてくるみたいな錯覚になってしまった。
「……」
トクン
胸が、鳴る。
篤さんに見つめられて、頬が赤く染まったあたしの事は、きっとこの月明かりが隠してくれる。
だから……。
「あの、篤さん……」
言った言葉はまるで虫の鳴く声。
それでも、そんな小さな言葉を、篤さんはしっかりと聞き取ってくれて。
「なぁに?」って優しく……優しく言葉を待ってくれている。
ドキンドキンドキン
ドキンドキンドキン
心臓が……壊れそう。
言うのよ、志穂!
震える手を握りしめて、ギュッと目を閉じた。
カラカラの口の中に、たくさんの空気を詰め込んで。
「っ……あたし、……あたし、篤さんが……好きです」
……言った!