溺愛プリンス
「……ハ、ハル?」
『ああ、俺だ。お前はそんな声だったか?』
「……」
こんな声です。
「……。で、なんか用ですか?」
ムッとしたまま言うと、思いのほか声に出てしまった。
でも、そんなあたしの事はお構いなしで、ハルは声色ひとつ変えずに言った。
『外に出ろ』
「は?」
『早くしろ』
へ?
な、なにごと?
わけがわからずに、一瞬言葉に詰まっていると一方的に切られてしまった。
ベッドに座って放心状態のまま、スマホを眺めていてハッとした。
今はハルの事考えてる場合じゃなかったんだ!
スマホをダイニングの上に置いて、慌てて洗面所に走った。
―――――
―――
「……」
眩しいくらいの太陽の日差しの下。
昭和を感じさせるうちのアパートの前に、なんとも不釣り合いな黒塗りの高級車が停まっていた。
思わず足を止めた瞬間。
ゆっくりと、その後部座席の窓が開いて、そこから顔を覗かせたのはハルだ。
「なんで……」
ってか、そもそもどうしてうち知ってるの!!?
一歩、また一歩と後退りしたあたしに、ハルはその綺麗な顔には似合わないくらい面倒くさそうに言った。
「遅い。 早く乗れ」
「え?いえあの、あたしこれから……って、ひゃああ!や、やめてください!だからあたし!これから行くとこあるんですってばぁーー!」