溺愛プリンス
「……」
ハルの名前が出てきたもんだから、昨日のことを鮮明に思い出してしまった。
かああ。
「で、でもなんでハルに?」
慌ててそれをかき消すと、まだキョトンとしてる茜を見る。
「日曜日の朝……、王子が開店前のお店に来てね?
和菓子が食べたいからって帰国してその足でお店に寄ったらしいんだけど……。志穂は休みかって聞かれて、あたし、とっさに言っちゃったの。
志穂が落ち込んでるといけないから様子、見てきて欲しいって……」
「え……?」
落ち込んでる?
なんで……。
首を傾げたあたしに茜は眉を下げると、そっと手に触れた。
そして、そのままキュッと握りしめる。
「……ごめん……。あたし、お店に忘れ物取りに行ってたんだ。それで……」
……土曜日?
ああ、そっか。
「……なんだ。茜、聞いてたんだ。あたしが篤さんに……」
告白して、フラれたの。
なんだか急に気が抜けて、あたしはトサッと椅子に身を投げ出した。
「うん」
コクリと頷いた茜は、その手にさらに力を込める。
あたしもそれに応えるように握り返した。
「やっと言えたよ。……でも、でもね?そう言う対象に見られないんだって、あたしの事」
えへへ、と笑いながら肩をすくめてみせると茜はそっと髪を撫でてくれた。
それで、ハルは来てくれたのか。
そう言えば、泣きはらした顔見られてたんだ……。
でも、何も聞かれなかったな。
ハルの事だから、知ったら絶対バカにされてもいいはずなのに。
『色気のない女』
その言葉が、頭の中をグルグルと駆け巡る。
でも、それと同時に昨日の夜、優しくあたしを見つめるハルも浮かぶ。
どっちがほんとのハルなの?
「……」
どれだけ考えたって、今のあたしにわかるはずがない。
今日は夕方からバイトが入ってる。
篤さんに、どんな顔で会おう。