老人ホームと女子高生
「ママ…矢沢さんって暗いの苦手なの?」


イベント会場になっているラウンジと呼ばれる部屋に着き、変装スタッフが寸劇をするのを老人たちが楽しんで見ている隅で、魔女を見つけて声をかける。



「苦手というより…トラウマ?」


「トラウマって?」


「彼女はあの瞬間、10才くらいの年齢に戻っていたのよ。その頃は戦争の真っ只中で、空襲もあったわ。」


「じゃあ、来るって空襲のこと?」


「そうかもしれない。違うのかもしれない。」


「なに?それ。ママそんなんで介護出来てんの?」


「介護は、介護スタッフたちが精一杯やってくれてるわよ。…それに、その人が歩んだ人生だから、想像は出来ても多分、本当の所は本人にしか分からないんじゃない?失恋の痛みと同じようにね。」




珍しく、母親の言葉が胸に響いた。


本人の痛みは、結局本人にしか分からない。


確かにそうだ。


私はあの時、ただオロオロして、自分がまずイッパイイッパイになっていた。


あのクマのスタッフの声かけに、私も救われていたんだ。



ちょっとだけ、クマのスタッフが格好良く思えてきた。
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