Noёl
……………
伸びた髪を丁寧にブローした。
五年前はショートカットだった髪も、気付けば十分ロングになった。
彼は、長い髪が好きだっただろうか。
コトンとコームを鏡台の上に置き、一番手前の引き出しを引く。
音をたてずにあけたそこには、たったひとつ、小さな箱。
手を伸ばしかけて、その手は空中で止まった。
『友梨』
未だに蘇る優しい声。
目を閉じれば、はにかんだ笑顔も広い背中も鮮明に浮かぶ。
どうしようもなく、浮かぶ。
不意に携帯のバイブが鳴った。
空中で止まったままの手を、携帯に向ける。
『下にいる』
切なさと罪悪感の狭間で揺れながら、あたしは携帯を閉じた。