てん ―The pure story―


何度か夕食を共にしたあと、原田はボストンバッグ一つ持って突然現れ、そのまま居ついてしまった。



母は僅かに戸惑った表情をみせたが、すぐに満面の笑みを浮かべ原田を迎え入れた。



それでも最初の頃、原田は母と共にボランティアに出かけていった。



それが、三日に一度、週に一度となり、奈央が高校一年の夏休みに入った頃には、日がな居間で、ごろごろするようになった。




「よう、またクラブ活動かよ!たまには家でなんかウマイもんでも作ってくれよ」



くわえタバコでテレビのリモコンを握ったままソファに寝そべっている原田が、奈央をナメまわすように見ながら薄ら笑いを浮かべて言った。



「いってきます」



奈央はクラブ活動とウソをついては毎日出かけていた。



原田より一回り以上も年上の母は、彼に夢中だった。



母はいそいそと帰ってきては原田のために夕食を作り、後片付けもそこそこに寝室に連れて行かれた。



奈央は耳をふさいで布団に潜り込むしかなかった。


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