てん ―The pure story―



珍しく原田が、今日は一日帰らないと言って朝から出かけて行った。



夏休みはあと10日ほど残っていた。



奈央は久しぶりにのんびりと居間で本を読んで過ごすことにした。



木々が生い茂った中庭からの風が心地よい。



――あいつ、このまま帰ってこなければいいのに――



奈央は父と母と三人で中庭でスイカを食べた日のことを思い出した。ぼたぼたと汁を垂らしながらスイカにかぶりつく父のあごを、母はいつも笑いながらタオルで拭ってあげていた。



「お父さん・・・」



奈央は目を閉じた。





何とか母と仲直りさせようと、父をプールに連れ出したのは小一の夏休みの終わりだった。奈央はわざと溺れたふりをした。



父はあわてて飛び込み、奈央を抱き上げると必死で人工呼吸をした。



薄目を開けると、必死な面持ちの父のあごから、水滴がぽたぽたと落ちていた。



「ごめんねパパ、うそよっ」

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